問い合わせの振り分けや投稿の審査など、「決められた選択肢の中から1つを選ぶ」処理にAIを使う企業が増えています。
こうした用途に特化したサービスとして注目されているのが、TypeSafe社の「Jev」と、OpenAIの「Decisions API」です。
JevとDecisions APIの違いは、大きく分けて提供元・画像対応・料金・データの取り扱いの4点です。
どちらも「文章を書かせずに、選択肢と確率だけを返す」という同じ考え方で作られているため、表面上はよく似ています。
一方で、入力できるデータの種類や1件あたりのコスト、社内規程との相性には、はっきりした差があります。
本記事では、2026年10月14日時点の公式ドキュメントをもとに、両者の違いを比較表で整理します。
あわせて、企業で導入するときに確認しておくべき点と、ケース別の選び方も解説します。
JevとDecisions APIとは(判断モデルの基本)

生成AIとの違い
JevとDecisions APIは、どちらも「判断モデル」と呼ばれる種類のAIです。
ChatGPTのような生成AIが自由な文章を返すのに対し、判断モデルは開発者があらかじめ決めた質問と選択肢に対して、答えと確率だけを返します。
たとえば「この問い合わせは、営業・サポート・経理のどこに回すべきか」と聞くと、選ばれた部署と、各部署の確率が数値で返ってきます。
出力が決まった形式に収まるため、返ってきた文章をプログラムで読み解く処理が不要になります。
確率を見て「自信が低いものだけ人が確認する」といった運用も組みやすくなります。
質問の形式は、両者とも次の3種類です。
| 質問の形式 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| はい/いいえ | 当てはまる確率を0〜1で返す | 「この画像に破損は写っているか」 |
| 選択 | 選択肢から1つを選び、各選択肢の確率を返す | 「どの部署に回すべきか」 |
| 段階評価 | 決めた段階で点数を付ける | 「障害の深刻度は5段階でいくつか」 |
Decisions APIの概要
Decisions APIは、OpenAIが提供する判断専用のAPIです。
2026年10月にパブリックベータとして公開されました。
利用できるモデルは「gpt-6-luna」の1種類のみです。
公式ガイドでは、主な用途としてコンテンツの分類、問い合わせのルーティング、作業の優先順位付けが挙げられています。
正式版(GA)の提供は「今後数週間のうち」と案内されており、現時点ではベータ版の扱いです。
Decisions APIの仕組みや使い方は、Open AI版のJev「Decisions API」とは?特徴や料金、使い方まで完全解説!で詳しく解説しています。
Jevの概要
Jevは、米国のAIスタートアップTypeSafe社が開発した判断モデルです。
最新版は「jev-1.13」で、TypeSafe社の直接APIのほか、OpenRouterなどの外部サービス経由でも利用できます。
TypeSafe社は2026年10月13日(米国時間)付の公式ブログで、early access(待機リストから順次利用を開放する形)での提供開始を発表しています。
分類やルーティングに加え、情報の抽出、出力の検証、ガードレール(不適切な入力の検知)といった用途も想定されています。
»出典:TypeSafe公式ブログ
Jevの特徴や使い方は、Jev(ジェブ)とは?特徴や料金、使い方まで完全解説!で詳しく解説しています。
JevとDecisions APIの違いを比較表で整理

比較表
| 比較項目(2026年10月14日時点) | Decisions API | Jev |
|---|---|---|
| 提供元 | OpenAI | TypeSafe AI |
| モデル | gpt-6-luna | jev-1.13 |
| 提供状況 | パブリックベータ | early access |
| 入力 | テキスト、画像 | テキスト、JSONのみ |
| 質問の形式 | predicate/choice/score | noul/choice/score |
| 入力料金(100万トークンあたり) | 0.10ドル | 0.042ドル |
| 出力料金 | 課金なし | 課金なし |
| 主な利用経路 | OpenAIのAPI、Vercel AI Gateway | TypeSafeのAPI、OpenRouter、Vercel AI Gateway |
| 学習への利用 | 既定で利用しない | 入力(プロンプト)は利用しない |
| ゼロデータ保持(ZDR) | 対象(対象となる顧客に限る) | エンタープライズ向けに個別相談 |
以下、とくに差が大きい項目を順に解説します。
【違い①】入力:画像に対応しているか
もっとも分かりやすい違いは、画像を判断材料にできるかどうかです。
Decisions APIはテキストに加えて画像を入力でき、「この商品写真に破損は写っているか」といった判断を1回のリクエストで行えます。
ただし、画像はbase64形式のデータとして直接埋め込む必要があり、URLやアップロード済みファイルのIDでは指定できません。
Jevの入力は、テキスト、JSON、テキストの配列に限られます。
画像・音声・動画は扱えないため、画像を使う業務では、別のAIで画像を文章に変換してからJevに渡す構成が必要になります。
一度に読み込める量にも違いがあります。
Jevは、TypeSafe社の直接APIでは入力データと質問の合計が64,000トークン、入力データと最も長い質問1つの合計が32,000トークンまでです。
OpenRouter経由で使う場合は、上限が32,000トークンと案内されています。
Decisions APIは、一度に送れる質問の数や画像のサイズ、利用回数の上限が公式ガイドに記載されていません。大量に処理する前に、OpenAIの管理画面や営業窓口で上限を確認しておく必要があります。
長い契約書や大量のログを一度に判断させたい場合は、事前に分割する設計が前提になります。
【違い②】料金:入力0.10ドルと0.042ドル

料金はどちらも入力トークンにのみ課金され、出力には課金されません。
単価は2026年10月14日時点で、Decisions APIが100万トークンあたり0.10ドル、Jevが0.042ドルです。Jevは半額以下になります。
仮に、1件1,000トークンの判断を1日10万件行うと、1日の入力は1億トークンになります。
この場合の月額(30日)の目安は次のとおりです。
| 1日あたり | 30日あたり | |
|---|---|---|
| Decisions API | 10ドル | 300ドル |
| Jev | 4.2ドル | 126ドル |
件数が少ないうちは差が小さいものの、全件の自動審査のように処理量が多い用途では、単価の差がそのまま運用コストの差になります。
なお、Decisions APIには、データの保管リージョンを指定した場合の割増料金と、長い入力に対する料金の倍率が設定されています。具体的な倍率は公式ガイドに記載がありません。
どちらもベータ段階のため、正式版で価格が変わる可能性も見込んでおく必要があります。
【違い③】質問の形式と返り値
3種類の質問形式は共通していますが、名前とデータの形式が異なります。
「はい/いいえ」の質問は、Decisions APIでは「predicate」、Jevでは「noul」と呼びます。
複数の質問を送る形式も、Decisions APIは配列、Jevは辞書型です。
返り値の中身はほぼ同じで、選択と段階評価の質問では、答えと各選択肢の確率に加えて「confidence」が返ります。
Jevのドキュメントでは、confidenceを「確率がどれだけ1つの答えに集中しているか」を0〜1で示す値と定義しています。OpenAIは、confidenceの定義を公式ガイドで公表していません。
段階評価の点数は0〜1ではなく段階の数に応じた値(3段階なら0〜2)になる点も、両者で共通です。
一方で、OpenAIのAPIとTypeSafe社のAPIを直接呼ぶ場合、両者のリクエストとレスポンスには互換性がありません。
同じ判断ロジックでも、そのまま差し替えることはできない点に注意が必要です。
ただし、Vercel AI Gatewayの判断用エンドポイントはOpenAIと同じ形式で、Jevを含む他の判断モデルも同じ形式で呼び出せます。
【違い④】速度の公表値
速度は、両社とも自社による公表値しかありません。
OpenAIは、Decisions APIはResponses APIより約10倍速く答えを返すとしています。
ただし、ミリ秒単位の数値や計測条件は公表されていません。
TypeSafe社は、Jevの応答時間をエンドツーエンドで70〜500ミリ秒としています。
この数値は、自社のノートPC(米国西海岸)から計測したものと説明されています。
両者を同じ条件で比べた公式データはないため、速度を重視する場合は自社の環境で計測してから判断するのが確実です。
【違い⑤】利用経路
Decisions APIは、OpenAIのAPIから利用するのが基本です。
既存のOpenAIの契約やAPIキー、請求の管理をそのまま使えるため、すでにOpenAIを使っている企業では追加の手続きが少なく済みます。
Jevは、TypeSafe社の直接APIに加えて、複数のAIモデルを1つの窓口で使えるOpenRouterからも利用できます。
OpenRouterを使えば、TypeSafe社の待機リストに登録しなくても、OpenRouterのAPIキーだけで試せます。
ただし、OpenRouterの判断用エンドポイントはURLに「alpha」が含まれています。正式な提供形態より仕様が変わりやすい可能性を見込んでおくと安全です。
企業で導入するときに確認すべき点

データの取り扱い
業務データを外部のAPIに送る以上、情報セキュリティ規程との整合は最初に確認すべき項目です。
Decisions APIに送ったデータは、明示的に許可しない限りモデルの学習には使われません。
不正利用の監視のため、ログは既定で最大30日間保持されます。
保持を一切させないゼロデータ保持(ZDR)はDecisions APIも対象ですが、利用できるのは対象となる顧客に限られ、一部に制限事項があります。
データの保管リージョンは米国と欧州を選べ、医療情報を扱う場合は、OpenAIとの医療向けの追加契約(Business Associate and Healthcare Addendum)の締結を条件にHIPAAにも対応します。
TypeSafe社は、顧客が送った入力(プロンプトなど)をモデルの学習に使わないと明記しています。出力の扱いについては記載がありません。
ゼロデータ保持はエンタープライズ顧客向けで、TypeSafe社への個別の問い合わせが必要です。
サービスは米国でホストされていると明記されている一方、保管リージョンの選択肢や第三者認証については記載がないため、導入時に個別に確認する必要があります。
また、OpenRouter経由で使う場合は、TypeSafe社ではなくOpenRouterのデータポリシーが適用される点にも注意が必要です。
監査や委託先管理の観点では、現時点で開示されている情報が多いのはDecisions APIです。
Jevを採用する場合は、DPA(データ処理契約)の内容と保持期間を契約前に書面で確認しておくと、社内審査を通しやすくなります。
»出典:OpenAI Your data
提供状況と仕様変更のリスク
Decisions APIはパブリックベータ、Jevはearly accessで、どちらもまだ正式版ではありません。
正式版になる段階で、料金、上限、リクエスト形式が変わる可能性があります。
Jevについては、公式ドキュメントで上限が予告なく変わることがあると明記されています。
基幹業務に組み込む場合は、APIを呼び出す処理を1か所にまとめ、仕様変更があっても修正範囲が広がらない設計にしておくことを推奨します。
判断結果のconfidenceが低い場合は人の確認に回す、という逃げ道を用意しておくと、障害時の影響も抑えられます。
日本語の精度と苦手な処理
日本語の業務データを扱う企業にとって、言語ごとの精度は見落とせない点です。
Jevの公式ドキュメントには、英語が最も精度が高く、日本語・中国語・韓国語を含む他の言語は扱えるものの、英語と同じ精度ではないと明記されています。
Decisions APIの日本語の精度については、公式の記載がありません。
Jevは、苦手な処理も公式に公開しています。
回数を数える、計算する、日付を比較するといった処理は精度が落ちやすく、こうした処理はプログラム側で行うことが推奨されています。
どちらを選ぶ場合も、本番前に自社の日本語データで精度を検証する工程を計画に含めておくと安全です。
2つのAPIのあいだで乗り換えるときの手間
先に述べたとおり、OpenAIとTypeSafe社のAPIを直接使う場合、リクエスト形式には互換性がありません。
乗り換える場合は、リクエストの組み立てと結果の読み取りの両方を書き換える必要があります。
乗り換えの手間を抑えたい場合は、Vercel AI Gatewayのように、OpenAIと同じ形式で複数の判断モデルを呼び出せる窓口を最初から使う方法もあります。
一方、後述するCloudflareの「Clef」はJevと互換性があり、接続先とモデル名の変更だけで切り替えられます。
将来の乗り換えも見込むのであれば、Jev系とDecisions APIのどちらの形式を社内の標準にするかを、最初に決めておくとよいでしょう。
»出典:Cloudflare Blog
JevとDecisions APIの選び方

Decisions APIが向いているケース
Decisions APIが向いているのは、次のような企業です。
- 商品写真や書類画像など、画像を判断材料に含めたい
- すでにOpenAIのAPIを契約しており、請求や権限管理を一本化したい
- データの保管リージョンやHIPAA対応など、開示された条件をもとに社内審査を進めたい
画像を扱う業務であれば、現時点ではDecisions APIが第一候補です。
入力単価はJevより高いものの、画像をテキストに変換する前処理が不要になる分、構成はシンプルになります。
Jevが向いているケース
Jevが向いているのは、次のような企業です。
- 判断材料がテキストだけで済む
- 処理件数が多く、入力単価を抑えたい
- OpenRouterなどを通じて、複数の判断モデルを比べながら使いたい
テキストのみで大量に処理するなら、Jevは入力単価の面で有力な選択肢です。
ただし、日本語での精度と、データの保持条件は導入前に必ず確認してください。
補足:Jevと互換性のあるCloudflareのClef
比較対象として、Cloudflareが2026年10月1日に公開した判断モデル「Clef」もあります。
JevのAPIと互換性があり、テキストに加えて画像(最大4枚)も入力できます。
入力料金は2026年10月14日時点で、100万トークンあたり0.24ドル(軽量版のClef-flashは0.038ドル)です。
モデルの重みがApache 2.0ライセンスで公開されているため、自社環境で動かす選択肢がある点も特徴です。
Jev互換の形式を使いつつ画像も扱いたい場合は、Clefも候補に入ります。
よくある質問
JevとDecisions APIは同じものですか?
別のサービスです。JevはTypeSafe社、Decisions APIはOpenAIが提供しています。なお、OpenRouterには「decisions」という名前のエンドポイントがありますが、ここで提供されているのはJevで、OpenAIのDecisions APIではありません。
生成AIのAPIで同じことはできませんか?
生成AIでも「次のどれかで答えて」と指示すれば似た処理はできます。ただし、決められた形式以外の文章が返ることがあり、選択肢ごとの確率を直接返す設計にもなっていません。判断モデルは答えが原則として選択肢の中に収まり、確率をもとに人の確認に回すかを決められる点が利点です。
判断の正しさは保証されますか?
保証されません。判断モデルが保証するのは「答えが決められた形式で返ること」であり、「答えが正しいこと」ではありません。重要な判断では、confidenceが低い結果を人が確認する運用と組み合わせることを推奨します。
JevとDecisions APIは、どちらも選択肢と確率だけを返す判断モデルで、仕組みはよく似ています。
主な違いは次の4点です。
- 入力:Decisions APIは画像に対応し、Jevはテキストのみ
- 料金:入力100万トークンあたり、Decisions APIは0.10ドル、Jevは0.042ドル
- データ管理:Decisions APIはリージョンやHIPAAの条件が公開済み、Jevは個別確認が必要
- 提供状況:どちらも正式版前で、仕様が変わる可能性がある
画像を扱う業務や、OpenAIの契約に一本化したい場合はDecisions API、テキストを大量に処理してコストを抑えたい場合はJevが候補になります。
いずれも日本語の精度は自社データでの検証が欠かせません。
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»出典:Cloudflare Blog
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